カーボンブラック協会

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カーボンブラックのナノマテリアルとしての安全性

7.2.2.3 疫学調査

 カーボンブラック生産工場での肺癌死亡率の疫学調査は米国、ドイツ、英国でのカーボンブラック工場の労働者に対して行われた。これらの研究は各機関の発がん性評価で検討され、カーボンブラックへの暴露と肺がんの発生率に因果関係は見いだせなかったと結論付けられている。

 

 

7.2.2.3.1 UN GHS及びEU CLP評価基準に基づく評価

 

  • 国連 世界調和システム(UN GHS)

     ラットにおいて、カーボンブラックは「肺過負荷」の条件下で、肺に刺激、細胞増殖、繊維形成、さらには肺腫瘍を発生させたが、この反応は主としてラット、特に雌のラットに現れる種特異的な現象であり、ヒトへの関連は知られていない11)この研究結果は、UN GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals-化学品の分類および表示に関する世界調和システム) によるカーボンブラックのラベル表示にも影響する。UN GHSでは、「動物実験で、動物に現れる影響の作用機構が、ヒトの代謝においてそのまま適用するのに疑問がある場合、動物実験よりも低い発がん性分類を採用する。また作用形態または作用機序が人に該当しない場合は、その物質が有害であるという分類はしない22)としてあり、カーボンブラックでは、ラットの実験で得られる有害影響の発生機構において、ヒトへの関連性が十分でないため、ICBAではUH GHSルールに則り、有害であると分類すべきでないと判断している。

  • ヨーロッパユニオン(EU CLP)

     EC圏で全ての化学物質の分類と表示に適用される「(CB4REACH)は-物質及び混合物の分類、ラベル、包装に関する規則30)」では、動物実験で、特定臓器への発がん性が認められたとしても、それがその動物の種に特有な機構によるものである時、それをヒトへの有害性を予測する根拠として用い分類しないというルール(CLP Annex I, 3.9.2.8.1. (e))があり、とくに「肺過負荷」の条件下の動物実験データはその立場から、カーボンブラックは発がん性分類の対象外である。カーボンブラックコンソーシアム(CB4REACH)はCLP規則に則り、発がん性分類において有害であると分類すべきでないと結論し、2009年にCB4REACHメンバーにより欧州化学品庁に提出、受理されている。カーボンブラックは、CLP規則30)中の「List of harmonised classification and labelling of hazardous substances(危険物質リスト)」には含まれない。

 

7.2.2.3.2 各機関の発がん性評価結果

(1)国際がん研究機関(IARC)

 世界保健機関(WHO)の外部組織である、IARC32)は英国23)、ドイツ24)、北米25)で労働者を対象に行われたヒトの癌リスクに関する疫学評価結果(コホート研究調査結果)を評価し、ヒトにおけるCBの発癌性を証拠立てるには不十分であると結論した26)。しかしながら、カーボンブラックのラットでの吸入実験研究結果16)17)27)は発がん性の証拠(エビデンス)として十分であるとし、発がん性分類グループ2B「ヒトに対して発がん性を示す可能性がある」に分類した(IARCモノグラフ-Vol 65 1996/ Vol 93 2010)。これは1つの種であっても、異なる2つ以上の動物実験研究で発ガン性が陽性であることが示された場合、このように分類するという IARC の指針に基づく結論である。

 

 

(2)米国産業衛生専門家会議(ACGIH)28)

 ACGIHはカーボンブラックの発がん性に関し、ラットによる吸入毒性試験では陽性であったが、これは「肺過負荷」状況にさらされた結果であり、ヒトの肺がん性へ関連付けるには不十分というMauderly13)の見解を支持した。さらに、英国23)、ドイツ24)、北米25)での労働者を対象に行った「コホート」研究の疫学調査結果において、CBへの暴露と発がん性の因果関係が見られなかったことから,ACGIHは、発がん性分類A3「動物に対し発がん性物質であるが、ヒトとの関連は分かっていない」としている。29)

 

(3)日本産業衛生学会

 日本産業衛生学会は、IARCの発がん性分類を検討し,発がん物質表を定めている。この中でCBは「第2群B-疫学研究からの証拠が限定的であり,動物実験からの証拠が十分でない.または,疫学研究からの証拠はないが,動物実験からの証拠が十分である.」に分類される。

 

(4)米国 環境保護庁(EPA: Environmental Protection Agency)

EPAは物質の発がん性分類を行っているが、カーボンブラックは含まれておらず、またEPAのIRISシステム(Integrated Risk Information System-人が環境中で暴露され悪影響を及ぼす化学物質のリスト)に含まれな
い。

 

(5)米国 国家毒性プログラム-(NTP:National Toxicology Program)

 NTPは、発ガン性物質をRoC(Report on Carcinogens .RoC)31)で公開するが、カーボンブラックはそのリストには含まれない。

 

(6)米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)

 NIOSH(National Institute of Occupational Safety and Health)は職業性ガンを起こす可能性物質のリストを公開し、0.1重量%以上の多環芳香族炭化水素(Polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH)を含有するカーボンブラックがそのリストに入っている。

7.2.2.4 CB抽出物
カーボンブラック中に含有される有機溶剤可溶分(カーボンブラック抽出物)は、IARCを始めすべての機関で発がん性の認められた多環芳香族炭化水素を含んでいる33)。従ってトルエン着色透過度や溶媒抽出量を測定する試験においてはこれに暴露する機会の生じないよう留意しなければならない。

 

7.2.3 がん以外の毒性

 

7.2.3.1 呼吸器系への作用

 カーボンブラックは他の低溶解性、低毒性の一般的粉じんと同様の作用を示す。過去の疫学調査によれば、高濃度・長時間の暴露で肺への蓄積量が増加し、その結果次のような症状が報告されている34)
(1) 肺内に蓄積された異物(CBカーボンブラック等)の体外へ排出される期間の長期化。

(2) 肺活量等の機能の低下及びじん肺

(3) せき、たんを伴う気管支疾患の増加

 

7.2.3.2 皮膚への作用

 カーボンブラックに、皮ふ感さ性は報告されていない。長期にわたる接触では皮膚の乾燥、刺激を伴うことがある。

 

7.2.4 許容濃度等

 

7.2.4.1 日本

(1) 管理濃度(厚生労働省告示369号2004年10月1日、改正厚生労働省告示437号2007年12月27日)

カーボンブラックは遊離けい酸含有率ゼロなので3.0 mg/m3

(2) 日本産業衛生学会勧告値 2001年1月15日

カーボンブラックは第2種粉じんに該当し、吸入性粉じん 1 mg/m3、総粉じん 4 mg/m3

 

7.2.4.2 米国

(1)ACGIH(産業衛生専門家会議)許容濃度勧告値(時間加重平均)
TLV-TWA 3.0 mg/m3 (吸引性粉じん)
(TLV:Threshold Limit Value TWA:Time Weighted Average)
(2) OSHA(労働安全衛生局)許容暴露限界値(時間的加重平均)
PEL-TWA 3.5 mg/m3
(PEL:Permissible Exposure Limit)
(3) NIOSH(国立労働安全衛生研究所)暴露限界勧告値(時間的加重平均)
REL-TWA 3.5 mg/m3
(REL:Recommended Exposure Limit)
NIOSHでは浮遊粉じんとしてのカーボンブラック中のPAHs(多環芳香族炭化水素)含有量が0.1%を超える場合には、空気中のPAHsの測定が必要であると推奨しており、シクロヘキサン抽出成分としての測定において、空気中のPAHsの暴露限界は0.1 mg/m3(REL)と推奨している。

 

 

7.2.4.3 その他各国

 

オーストラリア: 3.0 mg/m3, 時間荷重平均 (TWA)吸入粉塵
ベルギー: 3.6 mg/m3, TWA
ブラジル: 3.5 mg/m3, TWA
カナダ(オンタリオ州): 3.0 mg/m3, TWA吸入粉塵
中国: 4.0 mg/m3, TWA; 8.0 mg/m3, 短時間暴露限度(STEL-通常15 分間の時間荷重平均濃度)
コロンビア: 3.0 mg/m3, TWA 吸入粉塵
チェコ: 2.0 mg/m3, TWA
フィンランド: 3.5 mg/m3, TWA; 7.0 mg/m3, STEL(通常15 分間の時間荷重平均濃度)
フランス - 国立安全衛生研究所: 3.5 mg/m3, 暴露平均濃度
ドイツ - TRGS 900: 3.0 mg/m3, 時間荷重平均 吸引域粉塵; 10.0 mg/m3, 時間荷重平均 吸入粉塵
ドイツ - AGW: 1.5 mg/m3, TWA 吸引域粉塵; 4.0 mg/m3, TWA 吸入粉塵
香港: 3.5 mg/m3, TWA
インドネシア: 3.5 mg/m3, TWA
アイルランド: 3.5 mg/m3, TWA; 7.0 mg/m3, Stel(通常15 分間の時間荷重平均濃度)
イタリア: 3.0 mg/m3, TWA 吸入粉塵
韓国: 3.5 mg/m3, 時間荷重平均
マレーシア: 3.5 mg/m3, 時間荷重平均
オランダ - 最高許容濃度: 3.5 mg/m3, 時間荷重平均 吸入粉塵
ノルウェイ: 3.5 mg/m3, 時間荷重平均
スペイン: 3.5 mg/m3, 時間荷重平均(表示限界値)
スウェーデン: 3.0 mg/m3, 時間荷重平均
イギリス - 職場暴露露許容濃度:3.5 mg/m3, 時間荷重平均 吸入粉塵; 7.0 mg/m3, 短時間暴露限度(通常15 分間の時間荷重平均濃度) 吸入粉塵

 

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