カーボンブラック協会

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カーボンブラックのナノマテリアルとしての安全性

7.2.2カーボンブラックの発がん性
7.2.2.1概要
 カーボンブラックの発がん性は、実験動物への肺吸入による毒性学的研究、ヒトのコホート研究(特定の集団の健康状態を、長期間にわたり調べ、疾病とその要因を生活習慣や環境との関連から調査する研究)による疫学的研究が数多く行われている。雌ラット、マウス、ハムスターを使用した動物実験では、吸入による肺過負荷条件下で、雌ラットのみに肺腫瘍が見られた。カーボンブラック工場労働者を対象としたコホート研究では、暴露と肺がんの発生率に因果関係は見いだせなかった。各評価機関は、これらの研究結果に基づき発がん性を分類し、公表している。IARCではカーボンブラックの発がん性を、(ヒトにおいては、十分なエビデンスが無いとしながらも)、雌ラットにおいて発がん性の十分なエビデンスがあるとして「ヒトに対して発がん性を示す可能性がある」という2Bに分類した。一方、CLP、及び国連世界調和システム(GHS)に従うと、「動物毒性試験で肺腫瘍が見られたのは、非水溶性微粒子を肺に過負荷投与した時に発生するラット特有の現象である。」こと及び疫学的調査結果から、カーボンブラックへの発がん性分類は必要とされない。ICBAではEU・GHSのルールを支持している。カーボンブラックの発がん性評価に関し、各評価機関の分類は以下の様になっている。

 

 

 

7.2.2.2 動物実験(毒性学研究)

7.2.2.2.1 経口投与
 マウスおよびラット9)に2年間にわったて経口投与されたが、腫瘍発生率の増加は認められなかった。

7.2.2.2.2 吸入試験
 マウス、ハムスター、ラット(オス、メス)に対する吸入試験から以下の結論が導かれる。

 第一に、長期にわたる高濃度のカーボンブラックの吸入は、肺胞からの不溶性粒子の排除の遅延と粒子の顕著な滞留をもたらす。この現象は、「肺過負荷」と呼ばれ10)る毒性の低い様々な吸入性不溶性粉塵によく見られる現象である。ラットでは、このような肺への高負荷の結果、持続的な炎症が引き起こされ、それによって炎症が促進され、上皮過形成、肺線維症などが発生する。

 第二に、ラットは、カーボンブラック過負荷の影響に対して、他種(マウス、ハムスター)よりも感受性が高く、雌ラットは雄ラットよりも顕著な反応を示す11)。長期間の試験において、肺腫瘍の発生が有意に増加する傾向が見られたのは雌ラットのみであった。

 不溶性粉塵が肺に吸引されるとき、霊長類12)やヒト10) における、粉塵の肺沈着、排泄形態、組織の反応は、ラットとは明らかに異なる。こうした違いは、肺過負荷条件下で腫瘍が発生するというラットの特殊性を際立たせている。Mauderlyは、ラットによる動物試験結果を、種を超えて人に与える影響の推定に用いることの妥当性に疑問を投げた13)。米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は、Mauderlyの見解を支持し、2011年発行のカーボンブラックのTLV(閾値)文書において、“ラット”による肺過負荷条件下での実験結果をそのまま人に適用するには疑問がある。以上を考慮して、分類を3とした。

(1) マウス

 濃度7.4-12.2mg/m3のファーネス法カーボンブラックに暴露させる吸入試験では、暴露されたグループに体重の減少が見られ、若干の腫瘍も見られたが、暴露されていないグループ(コントロール)との統計的差異は見られなかった14)

(2) ハムスター

 高濃度(57-110mg/ m3)のファーネス法カーボンブラックに暴露させる吸入試験によって、喉頭がん、気管支の腫瘍は見られなかった15)

(3) ラット

 ラットを対象としたカーボンブラックの吸入暴露試験は、ファーネス法カーボンブラックを使用して、いくつかの暴露濃度(2.5mg-50mg/ m3)、暴露パターンで行われている。これらの試験から以下の結果が導かれた。この結果を基にIARCは、カーボンブラックを発がん性2Bの分類した。
● Dungworth16), Heinrich14)らは、雌のラットを用い6㎎/M3の濃度で、2つのグループをそれぞれ、43週間と86週間暴露させた。43週暴露グループは肺腫瘍率が18%で、86週暴露グループが8%で、長期間暴露の方が肺腫瘍率は低かったが、統計上この差異は重要では無く、肺腫瘍発生した事実が重要としている。Dungworth16)、 Heinrich14)らは雌のラットを用い、平均11.6㎎/ m3の濃度で24か月暴露させたところ、暴露グループの死亡率は56%で(非暴露グループ(コントロール)は42%)であった。その後暴露を止め、清浄空気下で6か月置かれたが、30か月目の死亡率は暴露グループで、92%、コントロールは85%で、暴露グループの死亡率が高くなった。また暴露グループでは39%に肺腫瘍が発生した。

● Maudely18)、Nikula17)はオス、メスのラットを用い、2.5mg/ m3 と6.5mg/ m3の吸入濃度で、24か月(16時間/日、週5日)暴露させる試験を実施した。この結果;

 ◇オス、メスとも暴露により、平均寿命が短縮し、高吸入濃度のグループの方がこの傾向が顕著であった。

 ◇オス、メスとも暴露により体重の減少が観察され、22か月後では、高吸入濃度ではオス、メスの減少率は、それぞれ14%と16%減であった。低濃度グループではオス、メスの減少率は10%以下であった。

 ◇暴露により、肺に進行的にカーボンブラックの蓄積が起こり、高濃度グループではメスの肺負荷が30mg/gで、蓄積量がオスよりも50%多くなっていた。低濃度グループでも蓄積は発生し、蓄積量は高濃度より低く、またメスの方が大きな蓄積量を示した。

 ◇ラットの肺の調査から、メスのラットにおいて線腫及び線がんが確認され肺腫瘍は高濃度グループで26.7%、低濃度では7.5%であった。オスにおいては統計上意味のある肺腫瘍発生は見られなかった。

 

7.2.2.2.3 気管支内投与

 雌のラットに生理食塩水中にカーボンブラックを懸濁させ、気管支内に投与した試験では、各種濃度において、肺腫瘍の発生率の増加が認められた19)。

 

7.2.2.2.4 皮膚接触

 オイルに懸濁させたカーボンブラックをマウスの皮膚に塗布する試験を実施した。その結果皮膚に対する発がん性への影響は、認められなかった20)。なお同試験において、カーボンブラックのベンゼン抽出物の塗布試験では、皮膚腫瘍の発生が認められた。

 

7.2.2.2.5 皮下注入

マウスにベンゾ[a]ピレン、その他PAHを6種類加えたを添加したカーボンブラックを皮下注入した試験では、多環芳香族炭化水素を含有するカーボンブラックを注入したマウスに局所的に腫瘍を発生させた。 多環芳香族炭化水素を添加していないカーボンブラックでは腫瘍の発生は認められなかった21)

 

 

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